five-turn

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デート当日。 俺は待ち合わせ場所である駅に 歩を進める。 10分前には着く予定だ。 あの後は普段と変わらなかった。 同じ道で、同じ二人が、 同じ時間を経験する。 一時間前が 違う自分たちのようだった。 そして、 メールで日程を合わせて 今に至る。 予定通り到着したのだが、 予想通り有空さんが 俺を待つ形になっていた。 「有空さん、すいません」 「あぁ、おは……よう」 急に声の小さくなった有空さんは じっと俺を見つめてくる。 「あ、やっぱ変でしたか?」 「……………」 「………有空さん?」 「あ、いや、 ふ、普段と雰囲気違うな」 「ですよね。 これ和葉がやったんです」 昨夜、和葉に デートのことを伝えると 「兄さんは鈍感だから、 私が服選んであげる」 と言われ 結果、普段の俺じゃなくなった。 「こんなの嫌ですよね」 自嘲気味に 有空さんへ笑いかける。 「そんなことはない、 とっても格好良いぞ」 和葉に頼んで正解だったかも。 口元が歪んでいる。 それでも、 恥ずかしくなってきたので 別の話題を探す。 「有空さんも凄く綺麗ですよ」 顔を紅くして、 下を向いてしまった。 やってしまった。 何か傷つけたらしい。 「あ、有空さん。その」 「ありがとう」 償いの言葉をかけようとしたが、 感謝の言葉で遮られた。 「二ノ宮に言われると嬉しいよ」 何だか俺も嬉しかった。 「……その、行きますか」 「うん、行こう」 目的もなく足並みだけを揃えて 歩きだした。
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