five-turn

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「さぁ、どうしようか?」 「お金は無理です」 「別に恐喝はしないよ」 優しく言い聞かせるように 否定された。 「ふふ、んー?」 今にも踊りだしそうなくらい 気分がいいようだ。 俺は逆に 刑執行を待っている死刑囚。 温度差が酷い。 「決めた」 観覧車早く終わらないかな? 願い虚しく、拳に力が入る。 「その口調止めないか?」 「え?」 あっけない命令に どうも納得できない。 「だから、 その丁寧口調は禁止だ」 「自分で言うのも おかしいんですけど、 そんなんでいいんですか?」 「もちろん」 自信満々に言われては、 これ以上反論はできない。 「わかりま、……わかった」 睨まれて、 自分の間違いを正した。 「有空さんは優しいな」 「…………………」 無言になり、不満そうな雰囲気を 一切隠すことなく 殺気をぶつけられる。 口調は崩したつもりだが、 どうもお気に召さないらしい。 「え、と、何?」 「有空だ」 「………………」 「有空と呼んでみろ」 「あ、有空?」 わかった。 この人、強情の部類に入る。 「これ、恥ずかしいよ」 「変なことを 考えているからだろ」 仕方がないと思う。 有空はかなり美少女で、 俺の、好きな人で。 その人を呼び捨てするのは 緊張して当然だ。 「それに私も秋人と呼ぶから おあいこだろ?」 あぁ、卑怯だ。 そんなふうに言われては 何も言えない。 「強いね、有空は」 「当たり前だろ。 私は秋人の先輩なんだから」 少し胸が痛んだが、 それでも十二分に幸せだ。
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