five-turn

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病室には俺と有空の二人だけ。 有日さんは 医師の話を聞きに行った。 俺は林檎の皮を剥き、 有空に渡す。 「ありがとう」 「どういたしまして。 やっぱり、左腕は痛いか?」 「一様、八針も縫ったからな。 今は薬で大丈夫だが、 刺された時は痛かったよ」 喋る有空はどこか楽しそうだ。 「なんか、楽しそうだな」 「まぁな、少し興奮してる」 調子の上げ方を忘れたのか、 誤解がありそうなことを言う。 「はい?」 「だってそうだろ。 私は殺人犯に 殺されかけたんだぞ。 でも、 奪われたのは左腕三週間分。 アイツには 私を犯せなかったんだ」 殺されかけた 人の言葉とは思えない。 調子が壊れてるのでなく ありのままの本心。 「有空」 衝動は消えない。 「なんだ? あぁ、別に頭はぶつけてないぞ」 「好きだよ」 この人を失いたくない。 「…………………え?」 イカレているのは俺のようだ。 このタイミングで告白なんて、 狂気の行動だ。 「人として、友として、 何より俺は 女としての桐原有空が好きです」 「      」 相手がどんな感情かは 分からない。 口を開くが、 そこから音がでてこない。 「だけど、 今は何も言わないでくれ」 有空は黙ったまま。 「ちゃんと けじめ付けてくるから」 有空は黙ったまま。 二個目の林檎を切り終えて、 皿に乗せる。 帰ろうと思い 椅子から立ち上がると それを察したのか、 有空から声が掛かった。 「しゅ、秋人! その、わっ、私は」 それ以上言わせないために、 口を塞ぐ。 答えはどうか知らない。 でも、聞いてしまえば終わる。 唇を離してドアを開き、 足早に廊下へ出る。 幸い、有空は一週間の入院だ。 「やっちまった」 何も決まってないのに、 頭を抱えこむしかなかった。
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