プロローグ.帰還

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その人物は、桜峰魔術師学園の校舎内にいた。 『閻魔のお膝元』との別名を持つ、学園の事務の中枢・北校舎を進む。 今は授業中らしく、廊下に響くのは靴音と、キャリーケースを引きずる音のみだ。 「……」 無音の空間を歩く内に、ある部屋の前に到着した。 真っ白な手を取っ手に伸ばし、ノックもせずに入室する。 そこには、天井が高くて面積も広い、広大な部屋が広がっていた。 壁には大小様々な絵画が飾られており、入り口から十メートルほどの位置には、高級感漂うデスクがある。 デスクの向こうには、これまた巨大な窓があり、桜峰市の北──藤吉市の町並みが見下ろせた。 だが、その者がまず視界に捉えたのは、高そうな絵画でも、パノラマのように広がる景色でもない。 自分から見て左側に設置された、応接用のソファーで、 「ぁ……」 色とりどりの紙で折り紙をしている、一人の少女だった。 彼女は入ってきた人物を視認した途端、あどけない顔いっぱいに笑みを浮かべる。
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