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回復魔術を使わずに出血を抑え、なおかつ戦闘を続行する手段は、
「……」
一応、無くはない。
しかし同時に、今の自分ではリスクが大きいことも知っているため、使用をためらってしまう。
「チョロチョロチョロチョロ……このネズミが!」
後方から飛んでくる怒号と、どこかのゴミ山が崩れる音に耳を傾ける桜田は、
(木宮君なら……どうするのかな……)
ふと、誰よりも強く、不器用ながらも優しい少年の無表情を、脳裏に浮かべた。
久しく言葉を交わしていないが、彼の表情くらいは(そのバリエーションの少なさ故に)すぐ思い出せる。
「……はぁ……」
思わず、ため息。
また怒らせてしまうことへの恐怖から、避け続けていたはずなのだが、
(勝手だな……あたし)
今は、猛烈に話したかった。
厳しい現状のせいかもしれないが、今まで以上に、彼に謝罪することを欲していた。
「……そうだよね」
ポツリと呟き、受け入れる。
「勝って……謝らなきゃね」
再び呟いた桜田は、顔こそ上げないが、深い色の目に力強い光を取り戻す。
同時に、頭上を通過した刃が、彼女が隠れるゴミ山を斬り裂いた。
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