プロローグ.帰還

3/6
前へ
/472ページ
次へ
そして、 「たぁっくみ~~~!」 黄色い声を上げながら、山吹色の和服を纏った、小さな体で飛びついた。ふくらはぎまで伸びた黒髪が、柔らかに宙を踊る。 泣く子も黙る生徒指導員・朱鷺沢 時音(ときざわ ときね)である。 歳相応(?)の笑顔を浮かべる彼女を、優しくしっかりと抱きしめながら、 「ただいま。元気だったかい、時音」 よく響くアルトボイスで尋ねる、その人物。 桜峰魔術師学園の理事長にして、二条院家の現当主──二条院 巧美(にじょういん たくみ)である。 「うむ! 巧美こそ大丈夫か? 薬を飲み忘れてはいないか、毎日心配しとったんじゃぞ?」 「あっはっはっは。実は三、四回飲み忘れてしまってねぇ。参ったよ」 腹の辺りまでしか届いていない頭を、嬉しそうに撫でる理事長は、笑顔を絶やさない。 ひとしきりじゃれ合った後、時音は理事長のキャリーケースを、机のそばに運びながら尋ねる。 「オックスフォードはどうじゃった?」 「良い街だったよ」 一方の理事長は、自分の机に座りつつ答えた。 「魔族に対する理解もあるし、ロンドンに次ぐ魔術都市に発展するかもしれないな」 どことなく満足げだ。
/472ページ

最初のコメントを投稿しよう!

78162人が本棚に入れています
本棚に追加