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小さく身を震わせ、慌てて立ち上がる桜田に、
「さぁ……もう逃がさないわよ」
嘲笑で歪んだ顔を向ける女。
対する桜田は答えず、大鎌を持ち直した。
柄と刃の繋ぎ目を、細い手で握るように。純白に煌めく切っ先が、肩に軽く触れるように。
「……」
深海のような色に染まる瞳に、強い眼光を宿して一言。
「……耐えなよ、あたし」
そして、
鋭い刃を、深々と自身の肩に突き刺した。
「くッ……!」
顔をしかめながらも、桜田は構わず、鎌を奥へ奥へと押し込んでいく。
やがて、刀身の末端にある装飾が、肩から生えた片翼のように、小さくも神々しく展開した。
女は息を飲んで、一部始終を見届けるが、
「……?」
すぐに間違いに気づく。
<クレセント・ヴァンパイア>は、桜田に"刺さっているのではない"。
刺せる限界まで刺しているにもかかわらず、切っ先は桜田の体を貫いていないからだ。
どういうことか、女があれこれと思考する間もなく、
「ッ……!」
わずかに息をつく桜田の腕に、細長い柄が、蛇のようにうねって巻きついていく。
真っ白い柄の末端が、手の甲を覆うように貼りついたのを確認し、桜田は拳を握ったり開いたりした。
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