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「想定外の表出がなかったわけではないが、概ねわしらの予測の通り、"侵食"は進んでおる」
「……まだ話せていないんだね。右京君」
理事長の指摘に、時音は首を縦に振る。
「ためらう理由は分かるがの。じゃが、このままではマズイのも事実じゃ」
「ふむ……」
理事長も悩ましげに唸り、陽光に揺らめく紅茶を飲むことで沈黙した。
数秒後、
「私はだいぶ学園を空けてたし、神崎君と直接の面識もないから、大きなことは言えないがね。
彼には、遅くとも12月までに話をし、余裕を持って"事"にあたってもらいたい」
カップを机に置いた理事長は、おもむろに立ち上がり、窓を背にして言う。
「右京君がいつまでも躊躇しているようなら、私が直接、真実を告げよう。それで良いね?」
「……告げぬのは、太助なりの思いやりなのかもしれんがのぉ」
ため息混じりに言う時音。
「いつまでも黙っておるなら、致し方あるまい」
「思いやり、か……」
小さく呟いた理事長は、立ったまま紅茶を飲み干す。
その直後に出た言葉は、
「彼は本当に変わってないね。学生時代から何も」
少なからず、笑みを含んでいた。
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