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殺意を秘めた黒い刃が、虚空を斬り裂き、唸りを上げる。
時たま地を砕く斬撃は、未だに男を捉えられない。
「ッ!」
渾身の一撃もかわされる。
「うわっとと……ふぅ」
軽く息を吐く男は、額の汗をぬぐう動作をするが、木宮の目には白々しい演技にしか見えなかった。
「そんな大きい武器なのに、素早い上に隙が無い……かなり徹底的に鍛えてるみたいだね」
「……」
言葉にも顔にも出さず、木宮は心のどこかで戦慄する。
男は彼の連続攻撃を、ただ避けているのではない。
自分の服に斬撃が届かない距離を見極め、ギリギリの間合いでかわしているのだ。
動体視力と運動神経が、かなり優れていることの証明だが、
(回避することを……楽しんでいるのか?)
スリルを求めているかのような戦い方は、木宮には到底理解できなかった。
不意に、
「その槍」
<ゲイボルグ>を指差し、男が口を開く。
「かなりの業物みたいだけど、特殊な能力とかないのかい?」
「話す必要はない」
再び大槍を構えて即答する木宮に、男は眼鏡をずり上げながら、小さなため息をついた。
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