ユーレイとマドレーヌ

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ドアを開けると、底の深い皿を両手で持った近野さんが立っていた。203号室に住む隣人だ。 「カレー食べる?」 開口一番そう言われて皿を差し出された。 「えっ、いいんですか!」 「私とチビ一人じゃ次の日食べても余っちゃうくらいなの。いっぱい作ったから上條くんにも」 下の子はまだ無理だしねー、と付け足しながら彼女はニコッと笑顔を閃(ひらめ)かせた。 「あ、それじゃあ……頂きます」 彼女の微笑みに推されるように上條はラップに包まれた皿を受け取る。手のひらからじんわりと温かさが伝わる。結構な量がありそうだ。 特に今夜は夕食を作る気が起きなかったので正直助かったし、嬉しい。 近野さんとは最初に挨拶に伺った以降もしばしば顔を合わせていた。平日の朝、家を出る時間帯が大体重なり、保育園と職場に向かうらしい彼女と子供二人にばったり会って言葉を交わす事も少なくない。こうしてたまに食べ物を受け取る事もある。 人当たりが良くて接しやすい人だと上條は思う。こっち側のお隣さんはとても感じの良い人で好感が持てる。 「沢山食べて下さいね。もし余ったらそっちのお隣さんに分けてもいいし」 「は、はは。ありがとうございます」 冗談っぽく言う近野に上條は苦笑した。
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