ユーレイとマドレーヌ

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高校生活と共に多忙な日々が始まった。新しい環境の上、勉強に部活にバイト、家事等という生活サイクルに慣れない今は大変だ。 目前の事でいっぱいいっぱいなそんなある日、学校帰りにコンビニに寄るとおにぎりコーナーに見覚えのある顔があった。 鎮座しているおにぎりたちをじっと見つめる横顔は、髪で隠れていて見えない。 (……あ) ボサボサの髪にファッションに対する無頓着さが見てとれる出で立ち、草臥(くたび)れたサンダル。180センチ以上はあるであろう長身、猫背気味な背中。 そして何より、身に纏(まと)う暗鬱なオーラ。 (あの失礼な隣人さんだーー!!) まさか会うとは、と思いかけてここはアパートから一番近いコンビニなのだと気付く。 男は彫像のごとく固まって棚のおにぎりを暫く見つめた後(端からは単にボーっとしているだけのようにも見える)、幾つかを籠(かご)に入れた。籠の中には既にゼリー飲料が五つ程入っている。 男がレジに向かう素振りを察して上條は雑誌コーナーに向かうため、きびすを返した。 なんでさり気なく避けるんだ俺。 声をかけても微妙な雰囲気になる予感がしてなんとなくすれ違わない方がいい気がしたのだ。 雑誌を読むフリをしている視界の端に、会計を済ませた男がぺたぺたとサンダルを踏み鳴らしながら外へ出て行く後ろ姿が映った。
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