ユーレイとマドレーヌ

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先日のコンビニでの彼を思い出して上條は思う。 あの独特の雰囲気はあの時だけのものではなかったのだと。 忙しい日々を送っているうちに陰気な男の存在は記憶から薄れていきすっかり忘れ去っていた。 妙な心配と別にどうでもいいというさして関心のない心持ちが同時に混在していて、変な話だが気になっているのかいないのか自分でもよくわからない。 だが、たとえ気になっているとしてもすぐに霧消してしまう程度のものだ。 歩み寄ろうとしなければ関わる事はない。 玄関先でばったり挨拶を交わすくらい。 隣に誰が住んでいようが自分の生活は変わらない。ほとんどの場合。 お隣さんなんてそんなもの。 カレーから立ち上る湯気を何とはなしに見つめる。 得体の知れない人間と関わらないに越したことはない――思考の終着点はここに辿り着く。 こんな事をつらつら考えていると昨今の日本人は何か大切なものをどこかへ置いてきてしまったんだろうなあと半ば感傷的になってしまった。 .
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