新住居

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「取り敢えずこんなもんかな」 一通り作業を終えた上條樹(カミジョウ イツキ)は空の段ボール箱を眺めながら吐息した。 積み上げられた箱は残り僅かだ。といっても自分一人だけの荷物。元々それ程の量があるわけではないからここまで片付けるのにさほど時間は掛からなかった。 休憩も兼ねて気分転換にベランダに出る事にした。 網戸を引き、一歩踏み出すと春の訪れを感じさせる心地よい風が上條の頬を優しく撫でた。 二階から見渡す景色の大半を占めるのは民家やアパートである。少し歩いて大通りへ出るとコンビニやスーパー、本屋などの店がある。 (洗濯物が早く乾きそうだ) 思わず眠気を誘われるような正午のポカポカとした新春の空気に穏やかな気持ちにさせられながら、新生活への期待で心は満ち足りていて。 この空間は自分だけのもの。 親元を離れて一人暮らしという魅力的な環境に、新しい玩具を与えられた子供のような嬉々とした気持ちになる。 決して広くはないけれど一人で住むには十分だ。 平凡で充実した生活を送るには十分の――。
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