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上條は血相を変えて男の下へ駆け寄った。
「大丈夫ですか!!」
途中、何か踏んだような気がしたがそんなことは意識の外だ。
上條はしゃがみこむと男の肩を軽く叩いたり揺さぶったりした。反応がないのを確かめると、慎重な動作で体を仰向かせる。
「しっかりして下さいっ!聞こえますか!?」
再度声をかける。
息はしているが、意識はないようだ。
(どうしよう……!こういう時はどうしたらいいんだっけ!!)
焦る気持ちが先立って体を揺することしかできない。
「う……」
揺さぶる振動のせいか、男はピクッと反応して微かなうめき声を漏らした。
意識は一応戻ったようだった。ひと安心する間もなく男はその口を殆ど動かさずに呻(うめ)くように呟く。
「し、……き……っ、ま………」
途切れ途切れに絞り出すように言葉と言えない言葉を紡ぐ。
相変わらず前髪が表情を隠しているが瞼が震えて睫(まつげ)が揺れたことは分かった。
上條は男の言っていることが分からなかった。切羽詰まった様子に手に汗握る思いがする。
ふと男の体から力が抜けたのが見て取れた。上條は目を見張った。
「ぐー」
そんな擬音めいたものが聞こえた直後、すーすーと規則正しい寝息が続く。
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