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「………え」
寝たよこの人。ぐーとか言いながら寝ちゃったよ。
もしや今のは寝言だったのだろうか?
「はぁ~……」
上條も男につられるように全身で脱力した。びびらせないでほしい…。
知らずして湿っていた掌を太股に擦り付けて拭う。とりあえず救急車のお世話になることはなさそうで良かった。
「ん、う…」
寝苦しそうな声のもとへ目をやる。ぐっすりとはいえない、ぐったりとしている様子から男は体調が悪いのかもしれないと上條は心配する。
前髪で隠れていても分かる。顔色の悪さと目元の黒ずみが具合が良くないことを如実に物語っているのだ。
床……体痛くなるよね、このままフローリングで寝ていたら。
何だか見ていたら中途半端に放っておけなくなってしまった。こうなったらやれることはやってしまおうという気になる。上條の面倒見の良い性格は、こういう場面でも例外なく発揮される。
隣接する部屋に布団があるのを確認すると、電気のスイッチに手を伸ばしかけて、引っ込めた。そろそろ暗闇に目が慣れてきた頃であるし、一応彼を慮ってのことだ。
上條は男の脇の下に手を差し込んで(失礼しますと心の中で断りを入れて)一つの明かりだけを頼りに後ろ向きに移動する。
自分とはある程度の身長差があるので抱えて運ぶには少々骨が折れるのだ。ただし、柔な体はしていないので引き摺るようにすれば体格が違えど十分可能だ。
敷きっぱなしの布団の上や周辺には漫画や衣類、コンビニの袋などが散乱していた。……暗くてよく見えないのは逆に良いかもしれない。
「見た目通りというか……」
唖然としつつそれらを適当に退けてスペースを空けると男をそっと布団に寝かせる。その辺にあったタオルケットをかけてやると上條は傍らに座り込んだ。
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