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上條が都内に立地するこのアパートに越してきたのは、三日前の事だった。
ついこの間中学を卒業したと思ったら、次は引っ越しの準備に追われ春休みだというのにここ最近はバタバタしていた。
あくまで『一人暮らし』というのが目的のため、アパートは実家からそれ程離れていない。
引越屋に頼む程の距離ではないような気がして、どうしたものかと迷っていた所、中学からの親友とその叔父の篠崎さんがその役を買って出てくれた。
篠崎さんの車に荷物を積み、三人で協力して部屋へ運んだ。一人分の量だからたかが知れているので案外あっという間に済んだ。
これから幾らか仕送りをしてもらう身であるし、親になるべく負担をかけさせたくなかったから経済面でとても助けられた。
お金もかからずスムーズに引っ越しを終えられて満足し、感謝の言葉を口にすると甘党の親友は、
「今度パフェ奢れ」
と金髪をいじりながらニヤリと笑み、篠崎さんは、
「いつでも飯食いに来いよ」
とやたらと肩を叩かれた。
篠崎さんに関してはいつものことだから苦笑で返した。
あの人との会話はどこかズレるのを知っている上條は今ではいちいち気にしないのだ。
単に嫁の料理の腕を自慢したいだけだろう。
こんな言われようだと若干の誤解を生みそうだが、篠崎さんはいい人だ。
甥っ子を溺愛している彼は親友の碓氷の事となると少し――いや、病的と言っても過言ではないかも――過保護な面も見られるが。
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