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言ってしまえばたかが隣人への挨拶なんだけど、ちょっと緊張するものだ。
感じのいい人で良かった。
一回目の引っ越しの挨拶を終えて一息つく。
上條の部屋は202号室であり先程訪ねたのは右の203号室。続いて左に向かって201号室で立ち止まる。
同じようにして呼び出し音を鳴らしたが、間延びした音の余韻が霧消する頃になってもドアは開かれなかった。
春休み真っ只中というのもあるし当然留守の可能性もある。もう一度チャイムを押して待ってみたが反応は無かったため、踵を返そうとした束の間、ドアがゆっくりと―少し不自然に思えるくらい―開かれた。
覗き込むようにして現れた部屋の主の姿を認めると同時に上條は目をみはった。
姿を現したのは、長身で黒髪のおそらく二十代後半の男。
おそらく、というのは顔が半分隠れていて判然としないからだ。前髪が長すぎる。
チャイムの音で目覚めさせられたのだろう、見るからにひどく眠たげで呆けた様子の男を見て上條は間の悪さを感じざるを得なかった。
長めの黒髪はボサボサ。野暮ったい、という言葉では表現しきれないどこか陰鬱なオーラを醸し出しており、よれよれのTシャツにジャージという形(なり)と相まって鬱々さがより増している。
それは眠気か、それとも彼が元々持っている性質から表れるものなのかは……初対面では判断しかねた。
(でかっ!暗っ!)
というあたりが第一、第二の印象となった。
失礼だが、あまり積極的に近寄りたいとは思わない人種だと上條は即座に思ってしまった。
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