プロローグ

3/6
449人が本棚に入れています
本棚に追加
/176ページ
 誰かを探すかのように無謀な程に山に登り始める。いつしか登った山は数え切れぬ程になったが、いつも達成感は得られなかった。やがて、深い哀しみと虚しさを感じ、眼前に広がる絶景に感動を覚えつつも、心は此処に在らず、何処か遠くを見つめていた。  荒れ果てた日常の中、大切なものを気付かぬまま幾つも失って、人から罵倒される事もあった。日々を無駄に過ごし、全ての事に対して苛立ちを覚え。思うようにならない日々に狂おしくなりつつも過ごし、最後には哀しくなってしまい、何もかもが、やる気を失せてしまい、うつ状態に陥ってしまう事が、たびたびあった。  時には人恋しくもなり、時には気晴らしに行くこともあったが、心癒される事もなく、長続きこそしなかった。彼は、原因を知っていたが、直視したくないが為に逃げていた。懐かしい思い出が色あせてしまうのではないかと思い、目を背けてきた。魂の奥底から叫びたい衝動に駆られ、日々を過ごしてく中、人前では素っ気なく強気に振る舞っていた。誰一人として彼の心の悲鳴には気付かなかった。
/176ページ

最初のコメントを投稿しよう!