プロローグ

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 やがて、彼は病に倒れ、真っ白な空間で思うように動かぬ身と激痛に襲われ、苛立ちを募らせつつ、膨大とも思える程の時間の中、思考を巡らせてゆく。ベッドの中で、枕を濡らし、苦しむ。  そんな、在る日、夢を見る。  辺り一面、闇に覆われて、何もない空間に彼はいた。歩いても歩いても、自分が何処にいるかすらも皆目見当が付かなかった。天と地の区別のつかぬまま、次第に不安に駆られ走り出す。闇が濃くなり漆黒に包まれ、自分が消えてしまった様に恐怖と焦りに心は支配され、息苦しさに襲われ、息が出来なくなってしまう。漆黒の中を泳ぐかのように手足をがむしゃらに動かし、誰もいないとわかりつつも、言葉とも叫びともわからない声を絞り出していた。そして、疲れ果て、足掻く事を放棄する。漆黒の波間を漂うように、ゆっくりと、闇の中をうごめく。
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