プロローグ

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 彼は、飛び起きて辺りを見渡す。何もない質素な白い空間が目に飛び込み、夢だと把握し、頬には熱い雫が伝い落ち掌を濡らす。窓の外を見遣ると、薄暗く、静かに雪が舞っていた。込み上げてくる哀しみを抑えられず、咳を切ったかのように熱く込み上げてくるものを止めれなかった。  降り積もる雪を眺め、窓からの冷気にも気にも留めず、震えつつも、彼は追憶の彼方に想いを馳せる。今の彼が彼で在る為に、確かに存在した過去。彼の人生の中で一番充実した日々。長年に渡り、葛藤し、苦しみ、足掻き続けてきた思い出を振り返る。  彼の想いは、半ば封印されてきた十年前に遡って、小さな町に還ってゆく…。
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