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朝美は門限の少し前に家に着いたが、ドアを開けた瞬間、眼鏡を掛けた大男に、真横に張り倒された。父だ。
「何時だ?」
吹き飛んだ朝美のせいで、パンジー等が丁寧に植えられた鉢植えはもう、原型を留めていなかった。
「すみません」
「何時だ?」
ポケットから出した携帯電話は、液晶が割れていた。
「すみません」
「明日こそは遅れて来いよ」
「すみません」
朝美の家は大豪邸で、別荘地に移したらそのままペンションとして通用しそうな、明らかに富豪の臭いのする家だった。庭の敷地も並大抵ではなかった。それらは、全て父が貿易で成功したためだった。
だから、朝美はその家が大嫌いだった。
まず、朝美は妾の子だった。いくら財産が凄かろうと、正式に与えられるものでないのなら、恩着せがましく貸される前に、拒否しようと思っていた。
しかし、無駄だった。無理矢理学歴のエスカレーターに乗せられ、テストを白紙で出しても、学校側で満点として扱われた。
このまま成人すれば、訳の分からない男と政略結婚させられるか、それが上手くいかなければ、肝臓が硬くなるまで水商売をさせられることだろう。
名前も、朝が嫌いな父の嫌味だった。
朝美は自分の部屋に入ると、腹を抱えて笑った。
朝美は、半身をずらし、膝を少し曲げ、衝撃を逃がすための構えを取っていた。
朝美の受身は、完璧だった。
痛くも痒くもなかった。
液晶の割れた携帯電話はダミーで、本物はタオルで保護して、鞄に入れていた。
朝美は机上で爪を切りながら、反射で刺さなくて良かった、と思った。
全ては計算ずくだった。
朝美は、全てを知っていた。
保健所での再三のDNA鑑定によって、自分が父と母から生まれた正式な娘であることを知っていた。
人間が人間をダシにしようとする場合、大した抵抗感も無い場合があるということを知っていた。
弱そうな者は、乱暴にすれば言うことを聞くということをも知っていた。
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