7歳

2/3
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ
小学校に入学した僕は、よく2年生の教室へ遊びに行った。 『2-1』と書かれた教室の、廊下側のいちばん後ろの席。 そこが、かおりちゃんの席だった。 いや、かおりちゃんなんていない。 かおりちゃんは死んでしまったのだから。 でも僕は毎日、放課後になると、2-1の教室へと足を運んだ。 誰もいない教室の片隅で、かおりちゃんは窓越しに僕を見つけて、笑って手を振ってくれた。 本当は手なんて振ってくれていない。 教室は空っぽだ。 僕は、教室に入ってかおりちゃんの席の前に立った。 本当はかおりちゃんの席ではないけれど、僕はそこをかおりちゃんの席に決めていた。 席の前に立つと、かおりちゃんは僕に話しかけてくれた。 「今日もいじめられたの?」 「…うん。」 「いじめっ子になんか、負けちゃダメだよ。」 「でも、ぼく、力が弱いから…。」 僕はかおりちゃんにそう言った。 本当はそこにかおりちゃんはいない。その席には、誰もいなかった。 「弱くなんかないよ。ただちょっと、勇気を出していないだけ。」 かおりちゃんが言った。 いや、言ってない。僕の心の中で、かおりちゃんがそう言ってくれているような気がした。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!