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小学校に入学した僕は、よく2年生の教室へ遊びに行った。
『2-1』と書かれた教室の、廊下側のいちばん後ろの席。
そこが、かおりちゃんの席だった。
いや、かおりちゃんなんていない。
かおりちゃんは死んでしまったのだから。
でも僕は毎日、放課後になると、2-1の教室へと足を運んだ。
誰もいない教室の片隅で、かおりちゃんは窓越しに僕を見つけて、笑って手を振ってくれた。
本当は手なんて振ってくれていない。
教室は空っぽだ。
僕は、教室に入ってかおりちゃんの席の前に立った。
本当はかおりちゃんの席ではないけれど、僕はそこをかおりちゃんの席に決めていた。
席の前に立つと、かおりちゃんは僕に話しかけてくれた。
「今日もいじめられたの?」
「…うん。」
「いじめっ子になんか、負けちゃダメだよ。」
「でも、ぼく、力が弱いから…。」
僕はかおりちゃんにそう言った。
本当はそこにかおりちゃんはいない。その席には、誰もいなかった。
「弱くなんかないよ。ただちょっと、勇気を出していないだけ。」
かおりちゃんが言った。
いや、言ってない。僕の心の中で、かおりちゃんがそう言ってくれているような気がした。
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