17人が本棚に入れています
本棚に追加
何の支えもなくなった少年の身体が重力に従い落ちるのを、男性は即座に受け止めようとする。
アレは、何も言わずそれを見ていた。
「…っおい!!ジン!!!しっかりしろっ!!」
剣を持たない方の手で少年を受け止めた男性は、そのまま少年の頬をぺちぺちと叩く。返ってこない反応に、眉を寄せ男性は少年を床に寝かせた。
心臓の上辺りに手を組んで置き、何回かに一回口から息を吹き込む。それを繰り返す内に、少年の口からピュッと水が吹き出た。咳き込み、身体を丸める少年にホッと息を吐いて男性はアレを見る。
「…なあ、覚悟は出来てっか…?」
腹の底からの低く重い声に、しかしアレは全く関心を見せなかった。ただ、俯きクスクスと笑うだけ。
男性は咄嗟に手放していた剣を再び握りしめ、少年を隠すようにアレに立ちはだかった。
『シェリ。ああ、シェリよ。いつまで君は僕から逃げ続けるんだい?』
アレは歌うように言葉を紡ぐ。やはり先程までとは全く変わってしまった声音と口調で、まるで少年に言い聞かせるように。
ピクリ、と男性の後ろにいる少年が身動ぎする気配を、男性は感じた。
「シェリ……?誰だ、それは…」
出来れば直ぐにでも少年を抱えこの場を離れたいが、如何せんアレがそう易々通してくれるとも思えない。それに、聞いたこともない名で少年を呼んでいる。
――もしかして、二年前と何か関係が?
男性の脳裏にふっと過った可能性を、アレは肯定するかのように深く深く笑みを浮かべた。
最初のコメントを投稿しよう!