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『思っていたよりシェリの近くにいたようだね。君の名は――まあ、聞くまでもないか。そろそろ、シェリを返してくれないかい?』
男性の問いに答えることなく、アレは問う。まあアレの態度や行動からして、少年――ジンをシェリと呼んでいるのは間違いないだろうが。
少年を水牢獄から解放した際に上げた右手をゆっくりと下げ、アレは笑うことを止めた。
「コイツはジンだ。人違いも程ほどにしとけ」
対する男性もゆらりと剣を中断に構え腰を落とす。今まさに戦闘が始まろうとしたその瞬間、アレは指を弾いた。
『わからず屋は好きではないのでね』
「ンなっ……!!!」
いつの間に出来ていたのか、自分の元いた所からアレに繋がる水の線が出来ていた。水の吸収率がかなり高いはずの絨毯の上を伝うそれはバチバチと火花を散らしている。
咄嗟に少年を抱えて後方へ飛び退かなければ、確実に感電していただろう。
「…あぁ、くっそ。水っつったら大量にあったじゃねえか」
瞬時に何をどうしたか、理解できた男性は己を可能な限り罵った。
少年を包んでいた水球が弾けた時、“男性は少年を抱き止めた”。つまり、水を被ったわけだ。アレと男性との距離は殆どなかったと言える。それに加えて、少年の呼吸を再開させた作業。あの時にアレと男性の間の水路が出来ていたとしても、なんら不思議はない。
『君って存外馬鹿なんだね』
「うるっせぇよ!!!」
まあ水の存在を忘れていた割りにアレからの攻撃を避けたのだから、結果オーライといったところだろう。
アレの言葉に怒鳴る男性は、しかし思考は驚くほどに冷静になっていた。
「(ハッ、俺ぁどれだけ腐りゃあ気が済むんだ。焦れば、そこで終わりじゃねえか)」
勝負において、焦りや怒りは隙を作る。
それを理解していた筈なのに忘れていた自分に自嘲気味に笑い、男性は少年を後ろへ下ろし振り返った。
「――次は俺から行かせてもらうぜぇッ!!!!」
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