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「……オリビア…?…っおい!オリビア!!!?」
一目見ただけでわかるほどの惨状。真っ赤に染まった美しい細工の施された床。特別に水を弾くよう加工されていた床は、少し濁り始めた赤を弾く。
――幾つもの塊が、そこに転がっていた。元が何だかわからないような、醜い肉片。
口元をその痩せ細った手で覆いながら、少しくすんだ金色の髪の男性は部屋を見回した。
鉄臭さが充満している中、男性は焦ったようにふらふらと視線をさ迷わせる。
彼女は、此処にいた筈なんだ。彼女は、……彼女の、いるべき場所、は…。
「……ッ」
ハッと思い浮かんだ場所は此処からは丁度見えない位置にあった。足に固まりきっていない血が跳ねるのも気にせず、男性は奥に突き進んでいく。
『えぇっ!部屋に入って直ぐの所でこの子を産むの!?』
『嫌よ?…なんでって……恥ずかしいじゃない!』
『だいたい!こんなとこじゃお医者様も満足に診察できないじゃない!…ねぇ?』
近くにいた医者に首を傾げながら聞く彼女に、周りの人間が苦笑するしかなかったあの時。
結局折れたのは自分で、彼女が言うように部屋に入って直ぐは見えないようにして――
疲れきった顔に小さく笑みを浮かべて、男性は顔を上げた。
視界に入ったベッドには、
腹が開かれ事切れた彼女と、小さな命。
小さな、命。
「ぅ…あ……あぁあああああ!!!!」
何故皆が息絶えて、何故彼女が冷たくて、何故赤子にきちんと処置がしてあったのか、など、男性の頭には少しも浮かばなかった。
ただ、大切な大切な妻を失った悲しみに、泣き叫ぶ他、なかった。
『アークシェル伯爵本邸が何者かに襲撃されるという事件が、第一の月末日に起こりました。
邸内にはアークシェル夫人、従者数十名に加え、ブレンチス伯爵の遺体が発見されています。犯人の痕跡は全くといっていいほど見付からず、捜査は難航しているのが現状のようです。
一説にはアークシェル伯爵の策略とも――』
それが、不可解な事件の幕切れだった。
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