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少年がロード=グレイソン特有な書き方の論文に奮闘していた頃。
同じ屋根の下の、しかし少年のいる書斎らしき部屋とは格段に違う明るさの部屋に、二人の男性が向かい合っていた。
一方はくすんだ金色の髪に幾分か白髪の混じった頬の痩けた男性。服から覗く手足が棒のようで、正気を保っているのか怪しい程の虚ろな瞳をしていた。
もう一方はがっしりとした体格に映える鮮やかな赤い髪の男性。口回りにある短い髭も鮮やかな赤色をしていたが、それは苦々しげに歪められていた。
金髪の男性――見方によっては老人に見えなくもない――はふるふると首を振り、嗄れた声で呟く。
私はどうすればいい?
ともすれば、聞き流してしまいそうな程の音量のそれに、赤髪の男性は眉を顰めた。その顔は男性に対する苛立ちにも、深い悩みに頭を抱えているようにも見える。
「おまえは、どうしたいんだ」
少しの思考の後、赤髪の男性は尋ねた。
さ迷っていた視線は金髪の男性に注がれるも、金髪の男性と視線が交わることはなかった。
「…わたし、は」
「おっと、勘違いすんなよ。俺はアークシェル家現当主様に聞いてんじゃねぇ。ラルクという、一個人に――アイツの父親に、聞いてンだぜ?」
ゆるゆると、赤髪の男性の声に金髪の男性――ラルク=アークシェルが顔を上げる。
ようやっと交わった視線に、赤髪の男性はほっとしたように笑んだ。
ガキの頃から、テメェは全然変わってねぇな。
そう言う男性に、ラルクはほんの少しだけ肩の荷を下ろす。昔からの仲だというのに、自分はこんなにも緊張していたとは。微かに口元を緩め、今度はしっかりと男性の目を見てラルクは口を開く。
「私は――」
奇しくも、それは丁度少年が論文を読みきった時間と重なっていた。
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