第一話 「原因と結果」

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  少年がロード=グレイソン特有な書き方の論文に奮闘していた頃。 同じ屋根の下の、しかし少年のいる書斎らしき部屋とは格段に違う明るさの部屋に、二人の男性が向かい合っていた。 一方はくすんだ金色の髪に幾分か白髪の混じった頬の痩けた男性。服から覗く手足が棒のようで、正気を保っているのか怪しい程の虚ろな瞳をしていた。 もう一方はがっしりとした体格に映える鮮やかな赤い髪の男性。口回りにある短い髭も鮮やかな赤色をしていたが、それは苦々しげに歪められていた。 金髪の男性――見方によっては老人に見えなくもない――はふるふると首を振り、嗄れた声で呟く。 私はどうすればいい? ともすれば、聞き流してしまいそうな程の音量のそれに、赤髪の男性は眉を顰めた。その顔は男性に対する苛立ちにも、深い悩みに頭を抱えているようにも見える。 「おまえは、どうしたいんだ」 少しの思考の後、赤髪の男性は尋ねた。 さ迷っていた視線は金髪の男性に注がれるも、金髪の男性と視線が交わることはなかった。 「…わたし、は」 「おっと、勘違いすんなよ。俺はアークシェル家現当主様に聞いてんじゃねぇ。ラルクという、一個人に――アイツの父親に、聞いてンだぜ?」 ゆるゆると、赤髪の男性の声に金髪の男性――ラルク=アークシェルが顔を上げる。 ようやっと交わった視線に、赤髪の男性はほっとしたように笑んだ。 ガキの頃から、テメェは全然変わってねぇな。 そう言う男性に、ラルクはほんの少しだけ肩の荷を下ろす。昔からの仲だというのに、自分はこんなにも緊張していたとは。微かに口元を緩め、今度はしっかりと男性の目を見てラルクは口を開く。 「私は――」 奇しくも、それは丁度少年が論文を読みきった時間と重なっていた。  
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