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クスクスと耳元で聞こえる声が離れない。むしろ近付いて来ているようにも思えて、心臓が異様に早く鼓動する。
『どぅシたンダい、ノろマにでもナったのカい』
ツまラナいねェ、と妙なイントネーションの声が少し低くなり、咄嗟に右手でアレを振り払おうとしたが遅かった。
「――!!グッ、…ゴボッ…」
後ろから肺の辺りを殴られて強制的に空気を吐き出した瞬間、自分の身体は水の中に浸かっていた。全身を球体の水で包まれ、どうにか酸素を求めようともがくが意味はない。
水の中なのに決して視界は歪むことはなく、否が応にもアレを認識することとなった。
「…っ、ガふ……ウッ」
竦み上がる身体は急激な血流に酸素を求めるのに、口に入ってくるのは酸素の含まれない水、水、水。どうにかして酸素をこれ以上吐き出さないようにと、震える口を両手で押さえるが、意味はなかった。
徐々に、意識が刈り取られてゆく。
ふわふわと漂う身体が更に意識を彼方へと連れ去るから、どうしようもなく少年はそれに身を委ねようとした。
『おヤすみ、“次は診察台で”』
しかし、アレは少年に安息を――気絶と云う安息さえ、許さない。アレが淀みなく言った言葉にカッと目を見開いた少年は、ふるふると首を振った。
「――ッ、……!!っ…!!!」
少年は声帯を震わせて何事かを叫ぶも、彼を包む水と空気との境界線がそれを拒む。
しかしそれこそがアレの予想通りだったのか。元から細かったその目が、更にきゅっと細められた。
『やはり、君は飽きないよ。“シェリ”』
ガラリと変わった声音が、口調が、少年に届く前に。少年はその意識をぷつりと途絶えさせた。
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