第一話 「原因と結果」

8/22
前へ
/26ページ
次へ
  クスクスと耳元で聞こえる声が離れない。むしろ近付いて来ているようにも思えて、心臓が異様に早く鼓動する。 『どぅシたンダい、ノろマにでもナったのカい』 ツまラナいねェ、と妙なイントネーションの声が少し低くなり、咄嗟に右手でアレを振り払おうとしたが遅かった。 「――!!グッ、…ゴボッ…」 後ろから肺の辺りを殴られて強制的に空気を吐き出した瞬間、自分の身体は水の中に浸かっていた。全身を球体の水で包まれ、どうにか酸素を求めようともがくが意味はない。 水の中なのに決して視界は歪むことはなく、否が応にもアレを認識することとなった。 「…っ、ガふ……ウッ」 竦み上がる身体は急激な血流に酸素を求めるのに、口に入ってくるのは酸素の含まれない水、水、水。どうにかして酸素をこれ以上吐き出さないようにと、震える口を両手で押さえるが、意味はなかった。 徐々に、意識が刈り取られてゆく。 ふわふわと漂う身体が更に意識を彼方へと連れ去るから、どうしようもなく少年はそれに身を委ねようとした。 『おヤすみ、“次は診察台で”』 しかし、アレは少年に安息を――気絶と云う安息さえ、許さない。アレが淀みなく言った言葉にカッと目を見開いた少年は、ふるふると首を振った。 「――ッ、……!!っ…!!!」 少年は声帯を震わせて何事かを叫ぶも、彼を包む水と空気との境界線がそれを拒む。 しかしそれこそがアレの予想通りだったのか。元から細かったその目が、更にきゅっと細められた。 『やはり、君は飽きないよ。“シェリ”』 ガラリと変わった声音が、口調が、少年に届く前に。少年はその意識をぷつりと途絶えさせた。  
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加