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『もウ終わッタのカい。ヤれやレだナ』
肩を竦めアレは笑う。あと数分も放置してしまえばその身体は確実に冷たくなるだろう少年を前にして、アレは馳せる想いに胸を焦がす。
ゆらゆらゆら、と漂う少年の姿を笑いながら見ていたアレは、ふとその顔に皺を刻んだ。
真っ白な顔に目の下の涙、赤い星、大きな唇。話すことなく笑い続ける筈の道化が、眉に皺を作り口を休めることなく動かしていた。
『ナんダイ!こノワタシの邪魔ヲするノかイ!!?』
ヒステリックに叫びながら振り返るも、その眉間の皺は既に消えている。笑いながら叫ぶ様は正に異様の一言に尽きた。
「――そいつに、何しやがった」
アレの視界に映るのは、真っ赤な髪をした薄汚れたローブを身に纏う男性。それは先刻、ラルクと言葉を交わした、その人物であった。
穏やかに、悲しげに笑う彼の姿はそこにはない。あるのは、ただ大切なモノを傷つけられた怒りに燃える獣の姿であった。
それを見て、アレは笑う。ニタリと、嬉しそうに、何かを思いついたかのように。
そして、アレはストライプの入った服に身を包む自分の腕をゆっくりと持ち上げて、少年の入った球体に手を近付けようとした。瞬間、キィンと鉄同士の擦れ合う音が響く。
ゆるりと首を傾げて、アレは問う。何をするの、と。ワタシは彼を助けようとしてるんだよ、と。
バッと少年の顔を見た男性はグゥと呻き、剣を引いた。鞘に入れることはせず、警戒しているのか剣先はしっかりとアレに向いていた。
アレは口端を更に吊り上げて、男性の剣を受け止めた自分の左腕を擦りながら少年を見た。もう、直に彼のその身はただの器と化すだろう。
アレも殺す気はなかったのか、笑いながら球体に指先を触れさせる。
『キャンセル』
たった一言、アレが呟いただけで少年を包む水は弾けとんだ。
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