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「…兄! 朝だよ瀲兄!」
やけに柔らかな感触が、ふにふにっと俺の背中にある。その感触が、押しては引く波のように感じる。
目を覚ますと、当然だが俺の部屋。そして後ろから聞こえるブラコンの声。
「……おい」
「あ! やっと起きた! おはよ瀲兄♪」
寝ている俺に添い寝をするかのように、後ろから抱き付いている澪奈。
なので、澪奈の胸が俺の背中に、これでもかと言うほどに、押し付けられていた。
無論、嬉しくなど、ない。
「くっつくな暑苦しい!」
「やんっ♪」
俺は澪奈を押し退け、ベッドに座った。押し退けられたのに、なんで嬉しそうなんだコイツは……。
そして執拗に、今度は座る俺の後ろから両手を回して、抱き付いてきた。……再び、背中に柔らかな二つの波が押し寄せる。
無論、嬉しくなど、ない。
皆無である。
もう、どうでもいいや。
時計を見ると、現在の時刻は八時半過ぎ。
今日は……土曜日だったな。
学校の休日くらいは、ゆっくり眠らせて欲しいものだ。
「お米とパンがあるけど、どっちがいい?」
俺の耳元で囁く、ブラコンの声。
これはつまり、和食か洋食か、と言っているのだ。
子供っぽい澪奈だが、意外にも料理等の家事は得意中の得意なのだ。そのお陰で、俺はこうやって健康に、健全に生きている。
「あー……米」
俺は、いい加減暑苦しい澪奈を振りほどくように立ち上がり、寝癖でボサボサの頭を掻きながら言った。
そして開きっぱなしのドアから出て、顔を洗うため洗面所に向かう。
「じゃあ今から作るねっ♪」
俺の後ろについてきていた澪奈は、洗面所へ入る俺に向けて言った。
*
朝食を終え、リビングのソファーで適当にテレビを見ながら、時間を潰していた。
相変わらずの、退屈な毎日。
勇者も魔王も。
神も悪魔も。
桃太郎も鬼も。
何も存在しない世界。
桃太郎くらいは、捜せば居そうだ。まあ、桃から産まれてはないだろうが。
適当にテレビのチャンネルを回していると、洗い物を終えた澪奈が、俺の隣に座った。
「何か面白そうなのやってる?」
「なーんにも」
新鮮味も面白味もない、休日の兄妹の会話。その会話が、ただ続くだけ。
「今日は出掛ける予定とか、無いの?」
「ああ。お前は?」
「澪奈? なんで?」
「いや、なんでって……。友達とかと遊ばないのか?」
「うん。瀲兄は友達と遊ばないの?」
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