12人が本棚に入れています
本棚に追加
/167ページ
「エッチでもスケッチでも何でもいい。とにかく俺は行かないぞ。妹とデートなんて考えられるか」
妹をソファーに押し倒し、両手で妹の乳房を揉み続けながら言う兄。
……全く説得力が無い。
というか、何やってんだ俺。
「あッ…! んん……」
「――ッ!!?」
そしてふと、澪奈の表情と息遣いが、俺の脳裏に、過去の、とある映像を映し出した。
俺は咄嗟に、過剰に、澪奈から手を離し、距離を取った。
澪奈の。
双子の妹の。
表情。息遣い。感触。温もり。汗。涎。涙。喘声。匂い。
その全てが、映し出された。
「…………何やってんだ、クソ……」
俺は強く頭を押さえこみ、下唇を、血が出るほどに噛んだ。
何に、腹を立てているのか?
俺に、腹を立てているのだ。
「れ、瀲兄……?」
そんな俺の、この異様な様子を目の当たりにした澪奈は、慌てて立ち上がり、ティッシュを取って、俺の顎に伝う血を拭った。
「ど、どうしたの瀲兄? 血……」
近付く澪奈の指。
近付く澪奈の身体。
近付く澪奈の唇。
今の俺には、嫌な記憶が掘り起こされるだけだった。
「近付くな!!!」
「――キャッ!?」
俺は、澪奈を怒鳴り付け、ソファーへ突き飛ばしてしまった。
澪奈は驚いた表情で、震える身体で、怯える声で、言う。
「ど、どうしちゃったの瀲兄…? 澪奈、何か悪いことしちゃった…? れ、澪奈のこと…きら、嫌いに…なった…?」
だんだんと、澪奈の声が震え、やがて、涙を一筋、流した。
そして俺は、正気に戻った。
また、澪奈を泣かせて。
また、澪奈を泣かして。
巫山戯るなよ。
「……悪い」
鉄臭い、血の味がする。
下唇が、痛い。
あれだけ噛んだんだ。
自業自得だ。
俺は、リビングから出ていくため、扉を開けた。そして、澪奈へ向け、
「本当に、ゴメン。……あと、大好きだよ。嫌いになんかなれない。お前は俺の、大切で、大好きな……妹なんだから」
扉を、静かに閉めた。
澪奈は泣いている。
妹が泣いている。
それを目の当たりにしながら。
頭を撫でてやることさえ。
抱き締めてやることさえ。
恐怖で、出来ない。
あの日が、恐くて、怖くて。
ただ、逃げた。
怪我は時が癒してくれる。
怪我は時が治してくれる。
だけど……。
一生治らない、キズは、有る。
一生消えない、傷痕は、有る。
それが、澪奈の身体には、有る。
最初のコメントを投稿しよう!