『夢』既視『現』

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「エッチでもスケッチでも何でもいい。とにかく俺は行かないぞ。妹とデートなんて考えられるか」 妹をソファーに押し倒し、両手で妹の乳房を揉み続けながら言う兄。 ……全く説得力が無い。 というか、何やってんだ俺。 「あッ…! んん……」 「――ッ!!?」 そしてふと、澪奈の表情と息遣いが、俺の脳裏に、過去の、とある映像を映し出した。 俺は咄嗟に、過剰に、澪奈から手を離し、距離を取った。 澪奈の。 双子の妹の。 表情。息遣い。感触。温もり。汗。涎。涙。喘声。匂い。 その全てが、映し出された。 「…………何やってんだ、クソ……」 俺は強く頭を押さえこみ、下唇を、血が出るほどに噛んだ。 何に、腹を立てているのか? 俺に、腹を立てているのだ。 「れ、瀲兄……?」 そんな俺の、この異様な様子を目の当たりにした澪奈は、慌てて立ち上がり、ティッシュを取って、俺の顎に伝う血を拭った。 「ど、どうしたの瀲兄? 血……」 近付く澪奈の指。 近付く澪奈の身体。 近付く澪奈の唇。 今の俺には、嫌な記憶が掘り起こされるだけだった。 「近付くな!!!」 「――キャッ!?」 俺は、澪奈を怒鳴り付け、ソファーへ突き飛ばしてしまった。 澪奈は驚いた表情で、震える身体で、怯える声で、言う。 「ど、どうしちゃったの瀲兄…? 澪奈、何か悪いことしちゃった…? れ、澪奈のこと…きら、嫌いに…なった…?」 だんだんと、澪奈の声が震え、やがて、涙を一筋、流した。 そして俺は、正気に戻った。 また、澪奈を泣かせて。 また、澪奈を泣かして。 巫山戯るなよ。 「……悪い」 鉄臭い、血の味がする。 下唇が、痛い。 あれだけ噛んだんだ。 自業自得だ。 俺は、リビングから出ていくため、扉を開けた。そして、澪奈へ向け、 「本当に、ゴメン。……あと、大好きだよ。嫌いになんかなれない。お前は俺の、大切で、大好きな……妹なんだから」 扉を、静かに閉めた。 澪奈は泣いている。 妹が泣いている。 それを目の当たりにしながら。 頭を撫でてやることさえ。 抱き締めてやることさえ。 恐怖で、出来ない。 あの日が、恐くて、怖くて。 ただ、逃げた。 怪我は時が癒してくれる。 怪我は時が治してくれる。 だけど……。 一生治らない、キズは、有る。 一生消えない、傷痕は、有る。 それが、澪奈の身体には、有る。
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