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また、繰り返し。
空を見て、そう思った。
月曜日。
退屈な二連休が終われば、また、退屈な学校生活が五日も始まる。その五日が終わって、また二連休、また五日。
「また、繰り返し……」
空を見て、そう呟いた。
「そうだね。また、学校だね」
突然、後ろから聞こえた声。
驚いた。
後ろから聞こえた声にではなく、驚かない俺自身に、驚いた。
「またお前か。な――」
「それ旧姓」
はるひだった。
「……俺が、お前の名前を間違うと決めつけて、即答してないか? 失礼にもほどがあるぞ」
「あら? 違ったの?」
いや、全くその通りだった。
失礼なのは俺だった。
失礼しました。
はるひは、踏み切りを待つ俺の隣に立ち、微笑んだ。
「運命って怖いよね」
「偶然だ」
「じゃあ、偶然って怖いよね?」
「偶然だ」
「今日は天気は?」
「偶然だ」
ここで、はるひが不機嫌な表情をした。澪奈とは違って、頬を膨らます、ではなく、眉をひそめた。
「ちゃんと、言葉のキャッチボールをしようよ! これだと、一方的な言葉のドッヂボールだよ!」
「はるひが変化球を投げてくるから、俺はまともな球を投げ返せないんだよ」
「私は、ど真ん中ナックルしか投げてないよ!」
「変化球中の変化球じゃねぇか!!」
その時、電車が、目の前を通過する。俺は電車に視線を奪われ、はるひのスカートが捲れることに気付けなかった。
電車の通過音で聞こえにくかったが、辛うじて聞こえた、はるひの情けない声。
「はうッ!?」
その声が聞こえた時には、遅かった。
また、拝めなかった。
そして、電車が通過し、はるひが頬を染めながら、気まずそうに俺を窺いながら、言う。
「……見た?」
「残念ながら」
「……見たい?」
「見られるのなら、見るに越したことはない」
何言ってんだ俺。
「……見せてあげよっか?」
「マジか!?」
「冗談に決まってるでしょうがっ!!」
はるひに、左肩辺りを叩かれた。
冗談。
言うまでもなく、解っているさ。
…ちょっと期待した。
はるひの頬が、赤くなっている。自分であんな事を言って、後から恥ずかしくなったのだろう。
「さて、馬鹿なこと言ってないで、さっさと学校行くぞ」
俺は歩きだした。
また、踏み切りが閉まっては、堪らないからな。
はるひは俺の隣を、歩く。
「……まだちゃんと挨拶してなかったよね。おはよ、瀲那くん」
「そうだな。おはよう、な――」
「それ旧姓」
失礼しました。
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