『夢』既視『現』

9/31

12人が本棚に入れています
本棚に追加
/167ページ
また、繰り返し。 空を見て、そう思った。 月曜日。 退屈な二連休が終われば、また、退屈な学校生活が五日も始まる。その五日が終わって、また二連休、また五日。 「また、繰り返し……」 空を見て、そう呟いた。 「そうだね。また、学校だね」 突然、後ろから聞こえた声。 驚いた。 後ろから聞こえた声にではなく、驚かない俺自身に、驚いた。 「またお前か。な――」 「それ旧姓」 はるひだった。 「……俺が、お前の名前を間違うと決めつけて、即答してないか? 失礼にもほどがあるぞ」 「あら? 違ったの?」 いや、全くその通りだった。 失礼なのは俺だった。 失礼しました。 はるひは、踏み切りを待つ俺の隣に立ち、微笑んだ。 「運命って怖いよね」 「偶然だ」 「じゃあ、偶然って怖いよね?」 「偶然だ」 「今日は天気は?」 「偶然だ」 ここで、はるひが不機嫌な表情をした。澪奈とは違って、頬を膨らます、ではなく、眉をひそめた。 「ちゃんと、言葉のキャッチボールをしようよ! これだと、一方的な言葉のドッヂボールだよ!」 「はるひが変化球を投げてくるから、俺はまともな球を投げ返せないんだよ」 「私は、ど真ん中ナックルしか投げてないよ!」 「変化球中の変化球じゃねぇか!!」 その時、電車が、目の前を通過する。俺は電車に視線を奪われ、はるひのスカートが捲れることに気付けなかった。 電車の通過音で聞こえにくかったが、辛うじて聞こえた、はるひの情けない声。 「はうッ!?」 その声が聞こえた時には、遅かった。 また、拝めなかった。 そして、電車が通過し、はるひが頬を染めながら、気まずそうに俺を窺いながら、言う。 「……見た?」 「残念ながら」 「……見たい?」 「見られるのなら、見るに越したことはない」 何言ってんだ俺。 「……見せてあげよっか?」 「マジか!?」 「冗談に決まってるでしょうがっ!!」 はるひに、左肩辺りを叩かれた。 冗談。 言うまでもなく、解っているさ。 …ちょっと期待した。 はるひの頬が、赤くなっている。自分であんな事を言って、後から恥ずかしくなったのだろう。 「さて、馬鹿なこと言ってないで、さっさと学校行くぞ」 俺は歩きだした。 また、踏み切りが閉まっては、堪らないからな。 はるひは俺の隣を、歩く。 「……まだちゃんと挨拶してなかったよね。おはよ、瀲那くん」 「そうだな。おはよう、な――」 「それ旧姓」 失礼しました。
/167ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加