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そして、しばらくして目的地に到着。芳ばしいパンの香りに包まれながら、俺とはるひはパンを買った。
俺は元々買うつもりは無かったのだが、澪奈から、帰宅が遅いとの御冠メールが着て、それの御詫びの餌にと買ったのだ。
店を出て、そして帰路の公園の中。空はすっかり茜色。
はるひは、ふわりとスカートを翻しながら、こちらへ振り返った。
「寄り道のお付き合い、ご苦労様♪ ありがとう、瀲那くん」
「おう。お陰で澪奈がご立腹だ」
「あはは」
他人事のように笑うはるひ。
ああ、他人事だろうよ。
はるひは、紙袋を適当に漁り、クリームパンを引き当てた。そして、それを一口食べる。
「美味し~♪」
幸せそうで何より。
さて、俺はそろそろ帰ろうか。
「じゃあ、俺はこれで――」
「えいっ!」
その、はるひの掛け声と共に、俺の口へクリームパンが押し込まれた。
しばらく俺は固まっていたが、そのクリームパンをかじり、咀嚼する。
「……んまいな」
「でしょ! 今度からパンはあそこで買おうと思うの♪」
と、新たな行きつけの店を発見し、嬉しそうなはるひ。
しかし、よく見たら、はるひが大事そうに持つクリームパンには、かじった跡が一ヶ所しかなかった。
つまり、はるひは自分が口を付けた所を、俺の口へ押し付けてしまったのだ。
はるひの様子を見ても、間接キスとか全く気にしていないようだ。と、言うより、気付いていない様子だ。
あれほど大事そうに持ってるんだ。余程、味が気に入って、他に考えが及ばないのだろう。
まぁ、わざわざ言うもんでもないよな。
知らぬが仏、である。
「まぁ、俺は帰るわ」
パンを見つめている、はるひ。
どんだけ気に入ったのか。
「え!? あ、うん!」
そしてなぜ、パンを隠すのか。
「心配しなくても、もう食わないよ」
「え、えへへ」
はにかむはるひ。
 ̄ ̄ ̄ ̄
「じゃ、じゃあまたね、瀲那くん!」
「ああ。またな、な――はるひ」
また、間違った。
しかし、はるひは気付かないまま、俺に手を振り、パンを大事そうに抱えて踵を返し、小走りで帰っていった。
まぁ、聞きそびれたのだろう。俺的には、いい加減怒られそうなので助かった。
いや、しかし、俺は今から怒られるのだった。
妹に。
ブラコンに。
全く、一体今度は何を要求されるのだろうか。この前は、確か、一緒に、同じベッドで就寝だったはず。
いやはや。
全く、誰が得するのか。
いや、ブラコン的には得なのか。
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