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「兄さん寝過ぎ! もうお昼じゃないの! いっつもダラダラして! さっさと顔洗ってきて!」
と、この通りである。
階段を降りた矢先の、澪奈からの言葉。
澪奈は、他の誰かが一緒に居るときは、この様に「ただの妹」になるのだ。
「あと、おはよう」
そして澪奈は、フンッと言わんばかりの表情をして、キッチンへ向かった。昼食の準備だろうか。
正直、俺的には、澪奈は常にこのモードであって欲しい。しかし、これも約半日だけなのだ。はるひが帰れば、その半日の反動的なモノが返ってくる。要するに、いつも以上にくっついてくるのだ。
今から先が思いやられる。
俺は顔を洗い、そしていつもの様にリビングへ向かった。何故か、リビングから話し声が聞こえる。
はるひの独り言かと思った。
しかし、違った。
リビングのソファーには、はるひが座っていて、その隣には……。
「!」
後ろ姿しか、見えないが。
その後ろ姿を、知っていた。
見たことが、あるのだ。
黒い長髪。
「あ、瀲那くん。紹介するね、この子は――」
振り向いた、黒い長髪の少女。
白い肌。
黒い長髪。
整った面持ち。
深い蒼い瞳。
その少女の全てを。
以前、見たことが、あった。
「夏月 葉奏ちゃんって言うの」
その少女の微笑みさえも。
「おはよう、泡沫……瀲那君?」
その少女の声さえも。
全て、見たことがある。
全て、聞いたことがある。
全て、知っているようだった。
まるで、デジャヴのようだった。
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