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「あたしは晩御飯の片付けがあるから、兄さん、二人を送ってあげて。どうせ暇なんでしょ」
相変わらず、たいした妹だ。
俺は澪奈に言われるがまま、はるひと夏月を送るため、二人と共に家を出た。空はすっかり紺色。星はちらほら、月はお椀型半月。
俺の前を歩く、はるひと夏月。どうやらはるひは、軽く現在地を、夏月に案内をしているようだ。建物を指差しては何かを言っている。
「でね、ここの橋を渡ると、私ん家があるの」
「そう。なら春日さんはここでお別れ?」
はるひは足を止め、何故か俺を見る。
「……ああ、はるひの方が家近いんだったな。んじゃ、先にお前ん家まで――」
すると、はるひは俺の言葉を遮るように。
「――う、ううん! 私は後回しでいいから、先に夏月さんを……」
そして、はるひは言葉を尻すぼみにし、再び俺を見る。
何故、見る。
「ううん、夜道は危ないわ。先に春日さんを送りましょ。ね、泡沫君?」
「……そうだな」
俺も、夏月には用があった。だから俺は、夏月の言葉を肯定した。
すると、はるひは少し表情を暗くさせたような、そんな気がした。
「う、うん……わかった」
*
はるひを春日家に送り届け、俺と夏月は、再びさっきの橋を渡っていた。俺の少し前を、黙って歩く夏月。
さて、夏月に用とは、訊きたい事なのだが、どう言ったものか。
そう、俺が頭の中で試行錯誤していると、夏月が口を開いた。
「この前、商店街で会ったよね」
「そうだな」
違う。商店街で出会ったのは、あれが初めてじゃないはずだ。
だってあの時、俺は、既に夏月を、見たことがある。と思ったのだから。
「なぁ……夏月」
「何かしら? 泡沫君」
夏月は振り返り、軽く首を傾げる仕草をした。
何故か、何故か。
俺の心を見透かされている気分だった。俺が何を言いたいのか、解っているような、そんな仕草だった。
微笑む口元でさえ、嘲笑ってるかのように見えた。
「俺、以前に、お前とどこかで会った……のか?」
「可笑しな事を言うのね、泡沫君。だからさっき商店街で……」
「いや……。その、もっと前に。それも何回も」
すると夏月はクスッと笑った。
「何? もしかして、それが都会のナンパ?」
と、微笑混じりに言う。
深蒼の瞳が細くなる。
白い肌の手が、口を隠す。
この仕草。この声。
全て、見たこと聞いたことのあるような、そんな気がする。
とても、気味が悪い。
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