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結局、俺の心のウヤムヤは解消されないまま、夏月の家に到着してしまった。マンションだった。
「送ってくれてありがとう、泡沫君」
「あ、ああ」
「どうしたの? さっきから、何か様子が変よ?」
深い、深い蒼が、俺を見る。全てを見透かしているようで、全てを知っているようで。その蒼に、恐怖さえ感じた。思わず後退りをした。
「まぁ、いいわ。じゃあ、私は帰るわね。泡沫君、帰り道には……くれぐれも気をつけて、ね」
「あ、おう。またな」
「うん、またね。もしかしたら、夢で逢えるかも、ね」
「はは……かもな」
微笑み、手を振ってマンションへ入っていく夏月。
その別れ際の言葉に、俺は思わず苦笑してしまった。
人のことを変だ変だと言う割には、夏月も相当変な奴だ。
「夢で逢えるかもって、そんな訳ねぇっての」
いつまでもマンションの入り口に立ってても仕方がない。俺は歩き始めた。
俺もさっさと帰って、夢で逢えることを願いながら寝るとしよう。と、そんな事を考えながら歩いていた、その時だった。
「ん?」
後方から、何か聞こえる。
現在地は、公園のど真ん中。お決まりに噴水がある。その、噴水の音に紛れて、何かが聞こえる。まるで、金属がコンクリートの地面を擦っているような、そんな音。
「何だ……? 誰か――」
俺は振り向き、言葉を言いきる間に、赤く光る二つの玉、金属バット、人間のような姿、を目の前に視認し、視界を遮られ、顔面の正面に激しい痛みを感じた。
そして、何も見えなく、聞こえなくなった。
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