『夢』既視『現』

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「俺は……公園で……金属バットで……」 「だから、くれぐれも気をつけてって、言ったのに」 夏月……知っていたのか。俺が公園で襲われることを。知っていたから、はるひを先に帰らせたのか。 深い蒼い瞳が、俺を見据える。 「夏月……何を知っているんだ?」 俺はその瞳を、見返して言う。 「お前は、何なんだ?」 夏月は視線を反らさない。真っ直ぐ俺を見て、言う。 「じゃあ、逆に聞くけど、泡沫君。君は何なの? 倒れていた君のすぐ側に、不自然に曲がった金属バットが転がっていたのだけれど、あれってどう見ても、君が殴られて、それで犯人がバットを棄てていった……殺害現場よね?」 夏月の言いたい事は、解る。 つまりは……。 「どうして、君は生きているの? しかもその程度の怪我で済んでいるなんて」 気付かなかったが、頭に包帯が巻かれていた。そして、頭の横辺りが痛み始めた。怪我はしているようだ。でも、怪我で済んでいる。 どうして。 どうして俺は、生きているのか。 昔にも、こういう事はあった。 俺が澪奈を庇って、トラックに轢かれた時。 俺がはるひを庇って、落下してきた看板を背中に受けた時。 そして俺が……あの日に、殺された時。 あの日あの時も、ただの怪我で済んでいた。 「……………………」 俺が黙っていると、夏月は椅子を回転させ、一周してからまた、俺を見た。 「ねぇ、訊きたいことがあるの。いいかしら?」 俺は黙りながら、夏月を見る。 そしてその時、また、商店街のあの時のように、刹那の間だけ、視界が全て真っ白になった。 しかし、夏月だけは、真っ白にならなかった。
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