『夢』既視『現』

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夏月は立ち上がり、ベッドへ座った。そして、俺を見つめながら、言った。 「ねぇ……泡沫君……君って、運命とか信じる人?」 お前は、はるひか。 急に変な事を言うものだ。 運命。嫌いな言葉。 勿論、俺の答えはこうだ。 「そんなもの、あるわけないだろ。あるのは偶然だけだ。俺は運命なんて信じない」 すると夏月は、クスリと笑った。 よく笑う女である。 「やっぱり。だって泡沫君、そういうの信じなさそうだもん」 運命。嫌いな言葉。 もし、本当に運命というものがあるのなら。 俺と澪奈は……。 「………………クソ」 そう、呟いた。 俺の呟きを聞いた夏月は、首を傾げる。 「……どうしたの?」 俺は返事をしなかった。 返事をしたくなかった。 訳も、話したくはない。 全ては、あの日から。 忌々しい、あの日から。 記憶を消せる術があるのなら、俺は命を捨ててでも、その術を知りたい。 そして、澪奈の、あの日の記憶を……。 完全に、消し去りたい。 「……………………」 俺は、ひたすら黙り込んだ。 そんな俺を見た夏月は、立ち上がり、部屋の中をうろうろ歩き始めた。 「私…知っているのよ」 と、藪から棒に、言い出した。 何を知っているのか。何を知られているのか。 どう、返事をすればいいのか解らず、俺は黙って続きを待った。 すると夏月は、くるりと反転し、俺を見て、とんでもない言葉を口にした。 「君、人間じゃないのでしょう?」 そう言う夏月の瞳には、嘘や冗談の色は無かった。
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