『夢』既視『現』

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今、なんて言いやがった? 俺が人間じゃない? コイツ、頭おかしいのか? 「お前……何言ってんのか、自分で解ってるか?」 「ああ、ごめんなさい。言葉が足りなかったかしら」 夏月は笑う。 嘲笑うかのように、また笑う。 「君は、ただの人間じゃないのでしょう?」 ただの人間、ではない。 さっきの言葉と、大差無い。 「いや、だからだな。お前は自分が言っている事が――」 「――もしかして」 と、夏月は俺の言葉を遮った。 「日本語が通じないのかしら? でも、さっきまでは普通に会話できてたし……」 完全に人を馬鹿にしている。 さすがにこれには、切れるものがキレた。 「お前いい加減にしろよ! なんださっきから、人を馬鹿にしやがって!!」 心のウヤムヤにも、ストレスを感じていた。そのせいか、拍車がかかり、半ば八つ当たりだった。 俺の怒鳴り声に、怖じ気付く事なく、夏月は俺を真っ直ぐ見て、威圧的に言った。 「じゃあ! 泡沫君」 ちょっと威圧された。 夏月の目が怖かった。 「どうして、死んでないの? トラックに轢かれて、看板に潰されて」 「――ッ!?」 何故、知っている。 話してなど、無いはずだ。 まさか、はるひが? いや、はるひはトラックは知らないはずだ。 そう、俺が考えていた時だった。 夏月は更に、驚く事を、言ったのだ。 「杭で心臓を貫かれたのに、どうして君は生きているの?」 俺は目を見開いた。 杭で心臓を貫かれた。 あの日を夏月は、知っている。 澪奈さえ知らない、あの日の出来事を。 俺しか知らない、あの日の、澪奈との……、あの後の出来事を。 何故、夏月は知っている。 「心臓を杭で貫かれたら、不死身の吸血鬼でも死ぬほどなのに、どうして人間である君は、生きているの?」 「………お前……」 意外にも、冷静な反応な俺。 でも、実はそうではなかった。脳内はぐちゃぐちゃで、自分で何を言おうとしているのか、解らない。 つまり「お前」以外の言葉が出なかったのだ。
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