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「じゃあ、俺は実際にバットで殴られて、ここにいるんだな……」
「そういう事。何だか残念そうね」
「ああ、残念だよ」
「別に、夢でしたことをしたいのなら、してもいいわよ。思春期の男の子にあんな夢を見せた、私に責任があるから」
「そっちじゃねぇよッ!!」
「あら、そうなの?」
笑う夏月。
いや、まぁ、うん。残念ではある。
それは兎に角。
「俺は……人間じゃないのか」
「すんなり信じるのね。こんな話、普通は信じないわよ?」
「お前も知ってるんだろ。昔、俺は心臓……左胸から背中まで、杭で貫かれた。それで今、こうやって生きてるんだ。人間な訳ねぇよ」
「そうね。でも、一つ訂正させて頂戴」
「何を?」
「人間じゃない、ではなくて、ただの人間じゃない、のよ。私だって、人間を捨てたつもりは無いもの。こうやって、姿形は偽りも無く、人の形なんだもの」
「……そうだな」
内心、俺はホッとした。
仲間……とは言えないかもしれないが、俺と同じ人間が居たことに。
俺は、他の人とは違う。
そのことには、とっくに気付いていた。だから、俺は友達を作らなかった。
もし、友達にこの事がバレたら。
きっと、化け物扱いされるだろう。
他人に化け物扱いされたところで、傷付きはするだろうが、友達に化け物扱いされるよりはマシだと思う。
だから、俺は友達を作らなかった。
「でもさ、夏月」
「何かしら?」
「前世が本当に有るのかは置いといて、前世が夢魔ってのは有り得るのか? だって夢魔…サキュバスって……」
「その前世が実際に存在していたという事実は、関係無いのよ。形に残っていれば、それはそこに有るの。物語の中、聖書の中、神話の中……。そこに、それが有れば、それは、ここに在るの」
なんか、ややこしいな。
「そしてね、泡沫君」
そう言って、夏月はズイッと俺の直ぐ傍に寄り詰めた。
「子供の名前、どうしましょうか?」
「は? 子供?」
「そうよ。私と君の、子供。もう、ここにいるわよ」
俺は手を掴まれ、夏月の下腹部を触れさせられた。
暫く時間が止まり、一気に全身の、血の気が引いた。
「は!? ちょっと待てちょっと待てちょっと待て! お前、あれは夢だって!?」
「そう、夢よ。でもね、泡沫君。夢魔はそうやって、繁殖する悪魔なのよ? 実際に、私と泡沫君は一つになってなんかないわ」
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