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「だったら子供なんて出来てないんじゃ!?」
「残念なんだけど、子供は出来てしまったの」
真剣な表情の夏月。
こいつは軽くヤバい。
素でヤバい。
「いっそのこと、結婚でもする? ほら、こういう事がキッカケで結婚することを、ええと確か……」
凄い話になっている。
しかし冷静だな、夏月。
夏月は少し考え、そして真剣に言う。
「ヤッちゃった婚」
「何このボケる余裕!? てか最悪な言い回しだなおい!!」
正しくは、出来ちゃった婚。いや、言うまでもないか。
「まぁ、冗談は置いときましょう。で、君を襲った犯人なんだけど……」
突然、話を元に戻された。
何が冗談だったのか教えて欲しい。子供の事なのか、ヤッちゃった婚の事なのか。じゃないと俺は冷静になれない。
しかし、夏月は教えてくれなかった。
蛇の生殺しとはこの事か……。
「その犯人も……ただの人間じゃないのか」
「あら、意外に鋭いのね」
「何となく、そんな気がしてただけだ。……どうして俺を襲ったんだ?」
俺は真剣な表情をした。当たり前だ。俺が狙われているのなら、俺が気を付ければいい話。だが、もし俺の身近な誰かが狙われているのなら……。
「狙われているのは、私」
なんか放っておいても大丈夫な気がした。
そんな考えが表情に出たのか、夏月は少しムッとした。
「もしかして今、放っておいても大丈夫だ、とか思ってない?」
「心を読めるのか!?」
「心が顔に出やすい人なら、大体解るわ」
それなら俺でも解るって。
俺は心が顔に出やすいのか。
「でもね、泡沫君。私は、君が思っているほど、強くないのよ」
まぁ、確かに、戦闘向きな体格でも、能力でもない。
「私は、ひ弱で軟弱で儚い美少女なのよ」
うん。とりあえず否定はしないでおこう。
「それに……相手が悪すぎる」
夏月はそう、窓の外に広がる夜空を見上げて言う。
「相手が悪すぎる?」
「そう。バクって知っているかしら?」
バク。獏。
中国に伝わる、悪い夢…つまり悪夢を食べるとする神獣。
「私は、存在自体が夢…いえ、悪夢かしら。だから、私ではどうしても勝てないの。天敵と言うのかしらね」
「天敵か……。そのバクが、どうして俺を?」
「バクは私を食べようとしている。だから、私にたかる虫が邪魔なのよ」
虫って言われた。
「それに、食べる、と言っても、色々な意味があるのよ」
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