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【03】
私の事、守ってくれないかしら?
夏月にそう言われたが、実際問題どうすればいいのか、いやはや皆無であった。
俺は格闘技なんか習ってないし、喧嘩慣れもしていない。急に戦えとか言われても、それは最初っから負け戦になる。
現在は、泡沫宅の自分の部屋のベッドの上。時刻は五時。
さっきまで眠っていたからか、目が冴えている。
そういえば、俺は夏月にこういう事を訊いていたな。
「俺の前世…いや、俺は、何なんだ?」
ベランダで涼む夏月に、そう訊いたのだ。
すると夏月は微笑みながら、こちらへ振り向く。
「知りたい?」
「も、勿体振るな」
正直、ドキドキする。
夏月は窓に凭れ、夜空を見ながら言った。
「死なない身体。でも、それは能力じゃない。死ななくて当然の存在。つまり、死そのもの」
「死そのもの……?」
その時点で、生物ではない事は判明した。
「そうね……。泡沫君、君はね――」
そして現在に至る。
俺は、自分の部屋の天井を見ながら、呟いた。
「鎌を失った死神……」
死神。デス。
死の象徴。生きるモノ全てを、死へ誘う神。異形の神。
そして、死神と言えば鎌。
俺は、その鎌を失った死神。
「鎌を失った……ねぇ」
俺が中学二年生だったら喜んでいたのだろうが、今は違う。正直、嫌な前世だ。不吉だし。
そういえば、夏月にこんな事を言われた。
「とりあえず、鎌を探さないとね。今のままじゃ、君はただ死なないだけ。バクと戦闘になったとしても、負けることはないけど、絶対に勝てないわ。それに……」
夏月はベッドに座り、俺に顔を近付けた。
「死なないクセに泡沫君、致命傷を受けたら気絶しちゃうみたいだし?」
「ほっとけ…」
クスクス笑う夏月。しかし、ふと笑うのを止め、どこか優しげな表情を見せた。
「頼りにしてるわよ。死神様、そして私の勇者様…」
「ハッ、悪魔が神を頼りにするのか」
「死神だって一応神だけど、ほぼ悪魔みたいなものじゃない。不吉だし」
「まぁ、そうだな。…もう四時過ぎてるのか。本来なら爆睡し――ハッ!?」
俺は直立した。
突然の俺の行動に、夏月は首を傾げる。
「どうしたの?」
「や、やべぇ……澪奈の事忘れてた」
前世では死神だった男が、妹の存在を思い出して汗だくになっている。
しかも、確か夏月とはるひを送るということだったはず。なら澪奈は、絶対にどっちかの家に泊まっていると考えるはず。
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