deja vu

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空を、見上げていた。 ただ、腹が立つほどの、蒼い空を見上げていた。何故、腹が立つのか。それは「空が蒼いから」。そう、特に意味も無く、空が蒼い事に腹を立てていた。 あまりに、平和過ぎる。 あまりに、退屈過ぎる。 たまに、ふと思うときがある。もしもの、ifの話。この世界が、漫画やアニメのような、剣やら魔法やら怪物やら魔王やら勇者やらが存在する、所謂パラレルワールドにならないのか、と。 しかし、実際にそうなったとして、俺は絶対に勇者ではないだろう。そして魔王でも、ない。ただの町人Aか、もっとどうでもいいような、百%名前が無いキャラクターなのだろうと思う。だって。 勇者なんて面倒じゃないか。 魔王なんて面倒じゃないか。 勇者は、必ず魔王を倒し。 魔王は、必ず勇者に倒される。 完璧に、シナリオ通りの台本通り。そんな、決められたレールの上を歩くような人生は御免だ。だったら俺は、普通に、平和に暮らしている町人Aになりたい。でもそれだと、今の、この現状と全く変わっていないではないか。そう考えると、わりかし今のこの現状に満足しているのかもしれない。 と、まぁ今はそんな、どうでもいいようなifの話を考えながら、現在進行形で登校中。現在は、踏み切りのせいで進行形ではないが。 なので、踏み切りのせいだ。俺が、朝からコイツと出会ってしまったのは。    レンナ 「……瀲那くん?」 俺の左斜め後方から聞こえた、昔っから聞き覚えの、いや、聞き飽きたくらいの声。振り向くなんてしなくとも、俺は誰か解って、溜め息を吐(ツ)く。 「おはよ、瀲那くん。何か最近朝によく会うよね。すごい偶然だよね」 そう言ってクスクス笑う、この、茶髪で胸の真ん中辺りまでの髪の長さの、両おさげの少女。 カスガ 春日はるひ。 本名、春日春日。 誠に可哀想なフルネームを持つ、俺の幼馴染み兼クラスメート。幼馴染みと言っても、別に、朝起こしに来たり朝食を作ったり、一緒に昼食を摂ったり、一緒に登下校したり、休日にはデート…と、そんな仲ではない、ただの幼馴染み。ただの、幼い頃から馴染みのある関係。 どうして、こんな名前になってしまっているのか。その理由は簡単。元々母子家庭だった、はるひの母親が、最近、春日という苗字の男性と再婚したからである。 なので、本人は名前を記入する際、「春日春日」ではなく「春日はるひ」としている。 「よぉ」 俺は、素っ気ない挨拶をして、これで会話終了。の、つもりだった。
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