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【01】
「で? 泡沫君は何を知りたいのかしら?」
今日で最後の夏月校内ツアーを終え、その帰り道。
はるひと別れ、俺と夏月は今、噴水のある自然公園のベンチに居た。
ちなみにここは、俺が以前に、バクと思われる人物に襲われた場所だ。
こんな場所で、堂々とジュースを飲みながら座っていて、大丈夫なのか?
でも、大丈夫らしい。
夏月曰く、バクは悪夢を食べる神獣。太陽が沈むまでは、バクに襲われることはないようだ。
つまり、悪夢を見る時間帯。
つまり、夜行性らしい。
だから安全らしい。
「何を知りたい…って?」
「何か用があるから、私と一緒にベンチで肩を寄せ合って座っているんでしょう? それとも、ただ私と居たいだけなのかしら?」
別に肩を寄せ合って座っている訳ではない。ただ、隣に座っているだけだ。
というか、やはりこっちの魂胆は見え見えだったようだ。
「そのさ、前世の話なんだけど」
俺は手に持っているミルクティーの缶の飲み口を見ながら、話を進めた。
「その、前世ってのは――」
「ちなみに。専門用語では化身っていうのよ」
「化身?」
「人で在りながら、人成らざる者のことよ。私は夢魔の化身。君は死神の化身」
「そうなのか。ってか、専門用語って、専門家とかいるのかよ」
「当たり前でしょ。人間には誰しも、遥か昔から前世があるのよ。かの有名な、自称第六天魔王「織田信長」も、専門家達の間では、本当に魔王の化身だったって言われてるし。まあ、一般人から言わせれば、ただの妄言を言ったオッサン。最近の言葉で言わせれば、中二病ね」
中二病。夏月さんは、そんな言葉もご存知なのですか。
「人間には誰しも――ちょっと待て!?」
「動いていない時に、待てと言われても……どうすればいいのかしら?」
ふざけている場合じゃない。
「誰しもって……全人類に、前世に…化身に因んだ能力があるのか!?」
夏月は手に持っているカフェオレを一口飲み、言う。
「……潜在能力って言葉、元は、その専門家達の言葉だったらしいわよ。つまりは専門用語」
元々、前世だの夢魔だの死神だのと、夢物語だと思っていた。正直、あまり信じていなかった。お遊び感覚で、夏月と話を合わせていただけだった。
でも、今の言葉を聞いて、俺は確信した。
全人類に、前世が在って。
全人類に、能力が在って。
そんなの…信じられる訳がない。
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