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翌朝。
「では、行ってきます」
大河は見るからに緊張した様子で、背筋がピンと極端に立っていた。
「お前な、今緊張してどうするんだよ」
見送りに来た伊吹が露骨に呆れた表情を浮かべる。
「まぁ、大河くんの面倒は自分が見るから大丈夫じゃ~」
「お前も保護者じゃなくて大河と同じ立場で呼ばれたんだろうが」
大河の隣に立つ小湊は相変わらずだ。
頼もしいような心配なような、ある意味では緊張でガチガチになっている大河の方がまともに見える。
何故この二人がこんな朝早くに、どこへ出発しようとしているかというと、それは昨夜遅くに遡る。
いつものように三人による意見交換会。
「どんなに際どいコースを攻め続けても対応してくるような奴には、思いきってど真ん中で勝負しちまう」
「そのどんなに際どいコースでも対応してくるような奴って、タローさんのことじゃろ?」
「聞いたことありますね。際どいコースで勝負したよりも、ど真ん中で勝負した方が抑えられたって話」
意見交換というよりも雑談に変わり始めていた。時間ももう遅いしお開きにしようかとした時だった。
「小湊、まだ起きて――るよな。大河も一緒か、こりゃ都合がいい」
突然、二軍監督の八文字がやってきた。
そして、
「二人とも、今すぐ荷物を纏めるんだ」
その言葉に二人の表情が凍りついた。
「そ、そんな……まだシーズンも序盤だってのに……」
「この時期に二人揃って戦力外とはちょいと厳しい話じゃな~……」
「……お前たち。実は結構ネガティブ思考? 逆だろ、その逆」
伊吹は呆れて言う。
戦力外の逆――
「と、トレードですか!?」
「違うだろ!! お前ら二人揃って一軍に呼ばれたってことだ」
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