第四章『チーム新編成』

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広島シャークス対東京ジャイアントの試合でそれは起きようとしていた。 「男子三日会わざればというが、これほど急成長する奴が身近にいたとは」 神妙な面持ちで神宮寺は打席に向かう。 今日の神宮寺の成績はここまで三打数無安打。その三打席全てが空振り三振である。 回は九回裏。 二死ランナー無し。 打席に入る前に電光掲示板を見る。 一回から八回までズラリと0が並ぶ。 ついでに、今日のチーム安打数もここまで0。 エラーによる出塁が一つと四球が一つ。 その二つの出塁で出したランナーも二塁を踏むことはなかった。 つまり、九回二死までノーヒットノーラン。 日本球界一の強打を誇る東京ジャイアント打線がたった一人の投手に完璧に抑え込まれていた。 高卒四年目――奇しくもあの湊一成と同世代――の投手に。 スコアは1-0。 一発が出れば同点。 初球。 奴はこの記録がかかった場面を心底楽しんでいるようだ。 内角胸元を速球が抉る。 120球近く投げているはずなのにその球威は衰えていない。 むしろ、増しているようにも思える。 ボールの威力と投手の迫力から思わず仰け反るが、判定はストライク。 二球目。 初球と同じ胸元を抉る球。 バットを出そうとした瞬間、それが大きく変化する。 伝家の宝刀カーブだ。 ファールで逃げ、簡単に追い込まれてしまう。 遊び球が来るか。 考える暇なく三球目。 外角低め。 前の打席ではここから落ちるフォークを振らされた。 その光景が僅かに脳裏を過り―― 外角低めへ速球が決まって見逃し三振。 ノーヒットノーランが達成される。 広島シャークスの若きエース、黒須神流(くろす かんな)がその存在を世間に知らしめた試合だった。
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