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「ふむふむ。広島シャークスの若きエース黒須神流、か」
翌朝、スポーツ新聞の一面はその男が並んだ。
「140km/h後半の速球と大きく曲がるカーブ、鋭く落ちるフォークが武器、か」
一面には
“急成長したホープ”
“予想外の展開”
“球界に新スター誕生”
と、前評判以上の投球を披露した黒須を賛美する言葉が並んでいた。
「前々から見所はある奴とは思っていたけど、確かに成長が早いな」
井原は大きくため息を漏らす。
実は、第二回WBCの第一次代表候補に黒須の名はあった。
持っている素質は十分。
だが、代表に選ぶには僅かに足りなかった。
昨シーズンの黒須は凡ミスが目立っていた。
上位打線を完璧に抑えたかと思えば下位打線に連打を浴びて失点したり、力んでコースから外れて余計なボール球が増え、一試合の球数が平均150前後と多かったりした。
球数制限のあるWBCでは命取りになると早々――最初の選考で外れた。
「代表に選ばれなかった事が黒須を成長させた、か」
もしも交流戦で対戦する機会があったら要注意だ。
一通り一面の黒須関連の記事を読み終えると、井原はそれほど注目されていない小さな記事をチェックする。
各球団の出場選手登録と抹消の一覧。
「スターズ、ファルコンズと続いてシャークスもか……。これでセ・リーグの昨シーズン下位球団は早くも戦力のてこ入れを行ったか」
シーズン開幕から間もなく1ヶ月。
この時期に補強するのは決して珍しい話ではないが、例年以上に積極的だ。
が、井原が気にしているのは補強したことではない。
その補強した人材だ。
「全員、WBCで選手登録されていた連中じゃん」
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