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その試合、湊が三人でピシャリと抑え、辛うじて逃げ切りに成功する。
「打線はなんとか繋がるようになってきたけど、ここ一番であと一本が出ないんだよな~」
試合後のインタビューもそこそこに、監督室へと戻った井原は、だらしなく両手両足を伸ばしてソファーに深く腰を下ろした。
「打線は大道寺と劉が中心、軸に動いています。が、ここ数試合は二人揃って調子を落としてきています」
「打線は水物。必ず好不調の波があるからな」
大道寺はその分を守備で、劉はヒットは出なくても四球を選んで出塁し、次に繋ぐ。
打てなくても最低限の役割を果たそうとするその姿は、打線を支えている。
だが、正直野手の駒不足は否めない。
現在主力で欠けてしまったのは開幕戦の伊吹だけだが、他の誰か一人でも欠ければ打線は維持できず崩壊する。
投手陣同様に、こちらも綱渡りの日々を過ごしていた。
「……そう言えば、下で面白い記録が出たんだっけ?」
暗い話題から抜け出したくて井原が無理矢理話題を変えた。
「はい。投手五人のリレーによるノーヒットノーランです。同日に広島シャークスの黒須が東京ジャイアント相手にノーヒットノーランを達成し、そちらが注目されて忘れられがちですが」
立役者は、間違いなくあいつだ。
専属の教育係として退院したばかりのベテラン捕手をつけたと報告は受けていたが、いきなり目に見える形で成果が出るとは。
「……監督、また企んでいますね」
新しい悪戯を思いついた子どものような笑みを浮かべた井原を、和田がため息とともに冷ややかな視線で見つめた。
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