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「――理想はそうだろうけど、たまにセオリーから外れてみることも駆け引きには必要だぞ」
やや苦めのコーヒーを一口すすり、伊吹は言った。
膨大な資料とにらめっこしながら話を聞いていた小湊は、
「ん~理屈は理解しとるんじゃがの……」
と、小首を傾げる。
頭では理解できているが上手く納得出来ていないという感じだ。
そしてその間に入るのが、
「予め来るって分かっていれば多少の実力差があろうが難しい球でもカットで対応出来ますよ。時には難しいけど警戒されていない三盗の方が有効な時がありますし」
テレビから視線を外さずに手元ではメモをとっていた大河が意見を口にする。
「そういうもんかの~?」
そう言いつつこちらもメモをとる。
今やっているのはフェニックス投手陣を上手にリードするための意見交換だ。
最初は伊吹と小湊だけで始まったこの意見交換会。
伊吹が、
「最新の生きた情報が欲しい」
と言い出し、
「それなら適任がおります」
と小湊に誘われる形で研究熱心な大河が資料持参で参加。
大河は相手投手の研究をしながら二人の間で交わされる“打者を抑える為、如何に投手をリードするか”を打者の立場で参考にさせて貰っていた。
たまにベテランの伊吹を頼って他の選手もアドバイスをもらいに来るが、基本三人だ。
「この広島の投手、凄いですね」
「ん? ああ、そりゃそうだろ。その試合はノーヒットノーランやっちまう試合だからな」
曖昧に答えながら伊吹はすっかり冷めたコーヒーを飲み干した。
そろそろお開きにするか。
「テンポよく投げているようで実はリリースのタイミングを変えている。だから打者は振り遅れているのか」
「ん~、このキャッチャーも上手いの~。そのピッチャーの早いテンポを維持しつつリズムよく投げさせとる」
伊吹は無視できない二つの言葉を聞いた。
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