第四章『チーム新編成』

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「――っしゃぁぁぁぁぁ!!」 ランナーなど最初からそこにいなかったかのような大きなフォームから左腕を振り下ろす。 この隙を見逃すはずがなく、当然ランナーはスタートする。 しかし、あまり意味はない。 内角高めへ投じられた速球に、バットが空を切る。 空振り三振でスリーアウト。二者残塁。 東北フェニックス対北海道ナイツ。 一勝一敗で迎えた三連戦の三戦目。 フェニックスの先発は麻生。 相変わらず豪快な投球を披露し、ナイツのリズムを崩していた。 六回を終えて5対2。 フェニックスが三点をリードする展開。 「あのノーコンサウスポー、ただのノーコンじゃないですね」 表情は変わらないがやや怒りが込められた冷たい口調で、北海道ナイツのGMにして投手の郁乃は呟いた。 普通この手のノーコンは、ランナーを出し、セットポジションになった途端に崩れるものだ。 だから多くの投手がフォームをコンパクトにしたり、根底から変えたり、最初からセットポジションで投げたりと工夫するものだ。 が、麻生は違った。 四球を出そうが走られようがお構いなしに150km/h台の速球を投げ込んでくる。 特に低めはワンバウンドになろうがお構いなしに投げ込んでくるので厄介だ。 今のように低めに意識が向くと、それを察したように高めで勝負してくる。 (今日は、負けたわね。でも、三試合戦って見つけたわ。東北フェニックスの穴を) 麻生は八回途中一死まで投げて被安打6、四死球7の2失点でマウンドを降りた。 後を任されたのは異色のナックルボーラー佐藤。 一死一、三塁のピンチでマウンドに上がる。 一発が出たら同点に追い付かれる場面だが初球、内角低めへの速球をショート正面へ打たせ6-4-3のダブルプレー。 八回をピンチを一球で、無失点でしのぐ。 九回のマウンドに上がったのは勿論湊。 一番テヴィットからの厄介な打順だが、多彩な球種を駆使して三者凡退に抑え試合終了。 麻生がプロ初勝利を手にした。
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