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「はぁ……、今日は疲れた」
試合終了後、ロッカールームに入ってくるなり湊はボソッと呟いた。
「え? もしかして湊、投げすぎで疲労困憊ってか? 大丈夫かよおい」
その呟きを聞いた麻生はやや大袈裟に反応を見せた。
同じように赤城や堀ノ内、草壁らが心配そうに湊を見る。
が、他の選手の反応はやや冷ややかだった。
「湊、一応確認しておくがそれは“連投による肉体的疲労”か? それとも“北海道ナイツ戦で投げたことによる精神的疲労”か?」
皆を代表して大庭が質問する。
心配そうにしていま面々――新加入や昨シーズンまで二軍にいた選手――は意味が分からない。
「……後者です」
「なら、モテ男の宿命と思って諦めろ」
「はい……」
溜め息と共に若干肩を落とす湊。
ただでさえ小柄な体が、更に小さく見える。
「オイオイ、何のことだ? みんな知ってることなのか?」
事情を知らない堀ノ内がやや苛立って聞く。
リリーフ陣のリーダー的立場にある堀ノ内。
責任感の強い彼は、まるで湊が陰湿なイジメを受けているように見えたのだろう。
大庭が代表して事情を説明する。
湊には現在も親交のある三人の幼なじみ――三人揃ってとても魅力的な女性――がいる。
その三人に加えてとある局アナの計四名から三月末に求婚され、その回答を保留していること。
その幼なじみの一人が北海道ナイツの御堂郁乃であること。
「つまり、気まずい求婚相手が見ている前で投げたから精神的に疲れた、と?」
「そういうことです」
「なるほど……モテ男の宿命ってのはそういうことか」
同情的だった堀ノ内の視線が冷たくなる。
(あぁ、僕には味方がいない)
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